WebSummitは、毎年ポルトガルのリスボンで開かれるテクノロジーカンファレンス。ヨーロッパベースでは最大のITイベントだ。
2日初日の速報では168か国10万4328名の参加が予定されているそうだ。そのなかの数千人はスピーカー、ジャーナリスト、投資家などではあるが、昨年と同程度の10万人近くの参加があるということ。
ひとつ昨年と大きく違うのは、開催がすべてオンラインとなったことだ。
WebSummitでのイベントの中心は、対象規模の多数のアントレプレナーのブース出展と、ITテクノロジーのロックフェスとも言える、広い敷地に点在するコンファレンス会場で行われる有名人や各社CEOなどを招いたトークセッション。トーク会場が6コくらいあって、さらに小型の商談会場や、、、と、イベント性の高さはブースにパネルをはったり製品を並べておねえさんがチラシを配るCEATECなどとは異なり、どちらかというと半分エンターテインメントの祭典のようになってきたSSWのほうに比較されることが多い。とはいえ、ライブコンサートとか映画のまくぎりとかそういったものはないし、「モノ」が発表されるCESのようなわかりやすさもない。どちらかというと、欧州圏で「起業したい」人がインスパイアされつつ出資社を探すのと、出資したい会社が集うイメージのイベントだ。ヨーロッパ外からの出展も年々増えているようだ。日本政府も日本ブースをまとめて出すなどかなり後押しをしてました。
WebSummitは2017年以降はリスボンのAltice Arena(アリーナ会場)で11月に開催されており、2018年には10年間これを続けるという発表があった。観光の閑散期にあたる時期、リスボンに何万人もの外国人が出入りすることになるイベントがウェルカムされたようで、街はまあまあ空いていて観光もホテル滞在もリーズナブルだし、天気も基本的にはよくてヨーロッパの北のほうからみたら「あったかい…」し、飛行機にのれば2時間くらいだし、フランスからならバスで来られるくらい。イベント参加者にとってもありがたい環境でウィンウィンとなったのではないでしょうか。
ポルトガルはお隣スペインに比べてだいぶんCovid-19の被害も低めで、秋口くらいまでは「リアル開催」もけっこう目されていたようなことを読んだけど、さすがのこの世界情勢、ほとんど国をまたぐことができないし、となり100%のオンライン開催となった。
カメラワークとヴィデオ編集力のポテンシャルが活かされた運営
いわゆる「展示会」をイメージしていると、WebSummitは舞台の華やかさとカメラワークに力点がおかれていることに驚く。以前からそうで、もともと開催中の映像をリアルタイムでYouTube配信したりするためになのかな…と思っていたのだけれど、実際のところあんまりYouTubeが伸びているわけではないので、登壇者に対するサービスとか、エンターテインメント性をあげるための特殊なこだわりなのかなあとよく理解できてなかったけれど、今年のオンライン開催ではこのWebSummitのポテンシャルが100%活かされた形となった。
この半年間、テクノロジー会社のオンラインセミナーや発表会が多数開催され、フォーマット的なものが見えていたような気がする。事前準備が可能という点で、ビデオを録画&完全に編集して高画質を配信、資料を完璧に用意する方向がアップルをはじめ増えていた気がするが、これはこれで「なんだかいつ見てもいいようで」つまらなくなってくる点もある。とくに待ち構えた内容でないビデオセミナーはけっこうだれるものだ。
さて、WebSummitはどういう演出にしたのだろうと興味を持っていた。
WebSummitのカンファレンスは2つの点で興味深い。
1つ目は、(おそらく録画している場合でも)少なくともコンファレンスに関してはオフライン時代のフォーマットをそのままに、カットなしのガチンコトークが展開されていること。
2つ目は、オンラインに移動したデメリットとメリットを見極め、録画ビデオを有効に使っていることだ。
ジャーナリストがリードするトークセッションのスタイルは健在
まず1つ目はオリジナルのウェブアプリ(イベントウェブサイト)を構築し、メインの5チャンネルに、おそらくスポンサー系の1チャンネル(Master Classの番組)を用意。チャンネルを切り替えれば瞬時に他のブースのコンファレンスに切り替えられ、もちろんウェブだから同時に映像を見ることができる。
見た目はBBC Soundsに一番似ているかも。チャンネルボタンをクリックすれば別のイベント会場へ。ちなみに出てるのはLimeの人。
あ、聞いてるのがスティーブン・レヴィでビックリした(笑)
ビデオは登壇者を1人写しと複合写しの2つを切り替えるだけなんだけれども、「カメラを操作してる人がいる」感じがよく伝わってきて、Zoomingにありがちな「しゃべってない人が映ってる」とかそういう変なのがない。5チャンネルに専門のスタッフが張り付いてというのはもちろんだけども、じつはメインチャンエル以外にもプレスカンファレンス、Q&A(ユーザーが話しに入れるらしい)、Breakoutや、Mingleという新しい人が出会えるオンラインプレイスみたいなのが同時に走っている。さらに、これまでリアルの会場で仕切られていたゾーンごとにイベントも設けているので15のブースでもなんらかのイベントが(数は少ない)もたれるようだ。すなわち、だいぶんすごい規模で同時配信がされているのがわかる。オープニング・リマークは6000人レベルの参加だったようなので、いま実現しているライブ配信にしたら少ないほうだけれど、参加費が200ユーロになるオンライン視聴としてはかなり(有料イベントなので)多いほうなのだと思う。
入場のために並ぶ必要もなく、移動中におめあてのトークイベントが終わってしまった……という空間的制約がなくてかなり快適。その代わり、1つのトークイベントが30分刻み程度から15分くらいまで短くカットされている。
WebSummitの参加者は、ゲストトーカーに興味があるという人は多いと思うが、トークセッションの面白いのは、聞き手がIT系のジャーナリストが毎回1人出てくること。みなさん大変勉強してるっていうこともあるので、自分の興味のある分野のトークはかなり面白い(場合によってはレベルが高すぎるのかよくわからない)。おそらく、オンラインになってもライブトークスタイルでクオリティが保てたのは、この「インタビューアーの仕切りと質問がいいこと」と「オンラインだからこそ世界中から用心を招くことにもうまくいった」からじゃないかと思う。
オンライン出演といえば、昨年はEdward Snowdenがロシアかどこかから出演したのがもっとも話題のゲストだったらしいのだけど、1年前、「オンラインで出演してください」といって有名人はどう対応したろう?と思うと、この10か月、ものすごい進化が(人類全体に)あったのではないかと思ってしまう。すごいことだ。
Liam Payne(元One Directionのシンガーソングライター)は、「カメラマンと2人切りで1本ビデオを自宅で撮った。ヘアメイクを自分でやって、髪の毛は伸び放題だし、そこが一番大変だったと思う。いまとなっては、やったことがなかったことで自分で撮った映像を自分でかんたんに編集したりして、それが思った以上に楽しめている」と行っていた。億万長者みたいなアイドルが、自分でビデオを撮って自分で(たぶんスマホで)編集したのを配信してるの? おそらくエンタメは、この1年、一番かわっているんだろう。パソコンで仕事してた我々が職場を自宅に変えたのとは大違いだろう。私達も、これだけセレブの自宅を見られることになるとは、去年まで思ってもみなかったはずだ。
録画配信とCMのバランス
タイムテーブルを見ていたら、今回5分というトークが目立ったので、どうしたのかなと思ったら、こちらはピッチ風の録画もの(インタビューアーがいない)だ。明日の予定だが、小池百合子さん「東京からのメッセージ」として登壇するらしい。うっかり平井大臣のデジタルシフトの話題は聞きそびれてしまった(残念ながらタイムシフト機能がみつからない。たぶんないんだろう)。
WebSummit系のイベントは英語イベントなので、通訳ツールなども用意されておらず(アジアイベントでの中国語とかの場合は、英同通訳がつく)日本人の登壇者は英語で数分話すのも大変なことも多いし、あんまり登場しない。しかしなるほど録画ビデオならばハードルも低いし、参加数も増やせていいアイデアだ。余計なおせわだけど、スポンサーシップなどと絡めれば、もちろんお金も取れるだろう。なにせ、いままでは10万円単位(招待も多いとはいえ)の参加費がかかるイベントだ。ブースを出す場合は出展費もあるから、そういうお金が集められないオンラインイベントは「もうからない」といってもおかしくないなかでイベントを維持できることだけでもえらい、とも言える。
そこで目についたのがCMだ。Huaweiなどビッグスポンサーはオリジナルの10秒程度のビデオを作成し、スピーカーイベントとイベントの間にCMが流れる。まあビデオだったら飛ばすけど、ライブイベントなので飛ばせない。つい観てしまう。なかなかよくできてると思う。
WebSummitはもともと収支などは発表されていないので状況が厳しいかうるおったかはどうかはわからないが、IT系企業はスポンサーシップがあるし、多くの企業は「巣ごもり効果」で売上増のところもめずらしくない。むしろ露出先がほしいのかもしれないと邪推できる。
なぜオンライン開催が可能だったか?
今年は多くのイベントが延期となった。SXSWをはじめ、Google O/Iもなくなった(多くの勉強会やビデオなどはオンラインで開かれた)。F8もBirningManもカンヌも延期された。世界的な音楽フェスも無く、スポーツイベントも行われなかった。
AppleはWWD3を無料化したうえでオンライン開催にシフトした。先に比較に出した。Appleの場合はすべてのビデオをハイクオリティなレベルで録画編集し、プログラマー向けのアーカイブコンテンツとして有用で快適な視聴が可能なレベルで仕上げてきた。いまとなっては映画やドラマを作り、編集機材となるハードウェアをつくるメーカーならではとも思う。
WebSummitの場合、オンライン開催向きだった理由がやはりあるように思う。ひとつは、入場者全員がスマホアプリをインストールしなければならないという「イベント自体がユーザーリサーチデータそのもの」というデータ分析をひとつの柱とするイベントであること。また、アプリ開発はイベント運営の一部となっており、WebSummitがITカンパニーを招致するだけでなく、イベント自体がIT開発そのものであることが強みとなったのではないかと思う。(なお、ステージの「カメラワークがやけに派手」なのはなぜなのかわからなかったけれど、その技術は今回いかされていそうな気がした)
そして、ゲストスピーカーが1000人を超える規模の巨大オンラインイベントが可能になったのは、参加者がすばやくAdaptしたという事実もあるかもしれない。なんといっても、ふだん視聴者を楽しませているだろう多くの話者が一同に集って最新の情報がきけることは面白い。もちろん今年の多くの話題は「コロナによる変化」や「コロナ対応」についてだ。聞き飽きたかもしれないと思うような話題かもしれないが、実際に世界中からそれぞれの企業がもちよる話は状況がずいぶん違う。
まだイベントが始まって数時間だが、今年の総まとめとして続きの日程も楽しみたい。
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