Zoom Zoom Zoomな一年

2020年のIT業界で目立ったできごとといえば、急成長を遂げたZoom(Zoom Video Communication Inc. NASDAQ:ZM)な一年であった、といっても過言ではないでしょう。

春先にZoomの利用が急激に進んだとき、こんな記事が出たのを思い出します。

https://onezero.medium.com/zoom-is-a-nightmare-so-why-is-everyone-still-using-it-1b05a4efd5cc

セキュリティ要件で絶対やってはいけないユーザー認証をすっとばしてインストールが完了してしまうスパイウェアのようなアプリ、その中に入っているソースコードには「英文のスペルミスがある」から「こんなソフトは使えない(のになんでみんな使っているの)」という記事。

しかし複数のバグや(スパイウェアのような)振る舞いは数週間で修正され、Zoomは進化を続け、ユーザーは増え続けてた。このライターさんはずっとZoomを使ってないのだろうか。

ちなみに問題点を指摘したユーザーはZoom を使っている気がする。

ユーザー数の伸びは350パーセント以上ではないかと6月の記事。おそらくもっとのびているでしょう。株価は年初比で730%まで上昇、社員は数年前の3倍以上、純益も34倍。ほとんどミラクルだ。

https://www.theverge.com/2020/6/2/21277006/zoom-q1-2021-earnings-coronavirus-pandemic-work-from-home

Zoomにはコンペティターがいるけれど、それらに比べると、とにかく手軽なソフトだった。私自身もよく使う。ただ、今日、ITのお友達と「オンライン会議用のマイクを検討する会」をやったところ、「マイクというよりZoomの音質とノイズ調整がすごいいい」という結論に。Meetもまあまあだね、みたいな。

やっぱり選ばれるのには訳があったのだ。音がいい、ノイズ軽減がいい、操作がかんたん、いろいろあるけれど。

そういえば、先日、WebSummitでZoomのCEOであるEric Yuanが短時間だが登壇したセッションがあり、気になっていたので、そちらの内容をかいつまみながら、Zoomが「選ばれる」背景を考えてみようと思う。

ちなみにオリジナルセッションは下記のタイトルのイベントだ。別途独占インタビュー記事が、Business Insiderにも載っているそう。このイベントレポートを出すこと自体はOKなんですが、取材は私自分の素材でないことを明記しておきます。

the original talk session was held at the WebSummit day 2 (Zooming ahead: The shaping of a new world). And interviewer was Alyson Shontell.

入国VISAを8回蹴られたCEO

Zoom はアメリカの企業だが、CEOのEric Yuanは1970年、中国山東省生まれの今年50歳になる男性だ。実用数学を専攻して大学院卒業後に北京に移住し、日本には4ヶ月トレーニングで滞在経験をした。これが1995年のこと。インターネット革命の年である。ビル・ゲイズに感銘を受けたYuanさんは、1997年にアメリカ(シリコンバレー)への移住を志すも、英語が話せなすぎてVISAを取得できるまでに9回も審査が必要だったという(Wikipedia情報)。

——結局はEric、あなたがアメリカに来てもらえたことは私たちにとって非常にラッキーだったけれども、VISAを取るまでに凹むということはなかったのですか。

Eric: 私がアメリカに来れたのは27歳のときです。当時、インターネット革命を夢見てアメリカに来ました。その時点から、いつか自分で起業してみたいということは夢だったんです。

——最初に入った会社が、ビデオ会議ソフトのWebEx でした。Ciscoに統合されいいポジションにつきますが、でも結局、スタッフとともに会社を離れます。WebExでは、初期メンバーでしたしキャリアも積んでいたのになぜその待遇を捨てたのでしょうか。

Eric: 一つはもともと会社をやってみたかったということがあります。もう一つは、一緒に働いていたスタッフが一年先に辞めたんですが、そいつが言うのには「この会社はもう辞めたいよ!だって、誰一人としてWebExを好きだっていうお客さんがいなくてウンザリなんだもの」。確かに、文句を言っているユーザーが多かったんです。それなら、自分はもっといいものを会社を辞めて新しくってみようと思いました。シリコンバレーにはいつでもスタートアップの夢があると信じていましたから。

・・・

つまり、Zoomは、ユーザーの不満の声がきっかけになっているそうだ。だから、ユーザーの声を聞いて素早く学び、素早く改善する。これがZoomの基本的な思想にはあるとYuanさんは考えているそうだ。

今年の春、Zoomのアプリはおかしいと言われた。そうしたら、すばやく世間の声に応えて「数週間だけ新機能アップをやめて全不具合の修正に注力します」というメッセージを出し、実際にその約束を守った。こういう姿勢は「好かれるソフトウェア」になる一例だと思う。

・・・

出資者に「ニーズが無い」と言われてもビデオ会議ソフトのユーザーが不満なことを身を持って知っていた

——ただ、起業を考えてからもまた困難だったそうですね。資金集めも大分断られることを経験したとか。どのくらい断られたんですか。

Eric: もう何度かなんてわからないよ、「too many 」なんだもの。もし自分が投資する側だったら、自分でも断ったかもしれないですしね(笑)。反対意見は、ビデオ通話はすでにあるから要らないじゃない、ということなんです。

しかし、わたしは実際にWebExでカスタマーの声を聞いていたから、そこにマーケットの可能性があると信じていました。とくに、「全然、既存のプロダクトのことをみんな好きじゃない」ということ。それで自信があった。

ただ、現状に不満があることだけは、私にはわかっていたわけです。

・・・

ソフトを使う人にとっては、「好きなアプリ」や「好きなソフト」があるはずだ。私自身もいくつかのソフトを使うけれども、嫌いなソフトは「動きが遅い」「すぐクラッシュする」「ユーザーにやり直しさせる」「まどろっこしい」など沢山理由がある。

たとえばZoomを使う前にSkype Businessでオンライン会議をしていたが、最高だったのは、日本最大手の人材派遣会社と日本で一番売れているパソコンOSを出してる会社とを繋ぐはずが、全然繋がらないのだ。30分のインタビューのために15分繋ごうとして、結局ダメで電話してた。バカなのか、と思った。それが1度でなく何度もあった。

オンライン会議ではほかにも面白い話があった。ある電話系通信会社とソフト会社でミーティングがあり、せっかくだからビデオ会議で!となった。だ、しかしソフトウェア会社はインターネット環境のツールしかない(インターネットツールなら沢山ある)。電話会社はネットを使ってはいけなかったらしい(電話回線を使う専用の電話会議ツールがあるそうだ)。この2つも繋がることなく、スピーカーフォンをオンにしたオフィス電話を部屋の片隅から引っ張りだしみんなで会議した。スピーカーをオフにしないと、受話器で話せない。おかしくて吹き出してしまいそうな体験だった。

どちらも大げさな体験だけれど、結局は「ソフトを使う上でのイライラ」だ。いまだって「音が聞こえないのに相手が自信満々にトークを続ける」「音がハウリングしてる」「カメラが切り替わらない」などいろいろなトラブルはあるけれど、Zoomの体験というのはスムーズで簡単で概ね満足度が高い。そいうものは「好き」になる。

それからZoomはアプリを使っているせいで、「利用体験がいい」。音質がよくなってきたGoogle Meetはブラウザベースでセッティングがいまいちかなと。ブラウザを開いてるうちにどっかいってしまうというブラウザならではの悩みもあって困る(個人の感想です)。

そんなこんなでZoomは2011年に設立され、2017年には1000億円企業に成長していました。2019年に上場を果たし、Yuanさんの夢も叶います。

・・・

——今年驚異的な成長をZoomは経験しましたが、過去に急速に伸びを感じたタイミングがありましたか。もちろんIPOの前のこともあると思いますが。

Eric: IPO前の状況は、100%成長を毎年続けて、しばらくすると少し成長がゆるみます、そういう感じでした。そのほうがコントロールもしやすいですよね。

――そもそもIPOは、目標としていたところですか?

Eric: 1997年にアメリカに来たとき、多くの素晴らしい会社ができ、そしていろいろな素晴らしい逸話を聞かされました。わたしは「いつか自分でもニューヨークに行ってベルを鳴らすんだ!」ってそのとき思ったんです。ですからNASDAQ上場は私にとっては悲願でした。

――そうなんですね。でもIPOを人生とピークとはお考えになってないでしょう? さらに先の予定を考えているはずです。近年、Zoomのミーティング数、参加者数はまさに打ち上げロケットのような伸びです。社内ではどんな苦労をされているのでしょうか?

Eric: 基本的にわたしはこの状態を楽しんでいます。すごい仕事量をこなしてもらっていますが、そしてどうやればプロダクトがよくなるか、ユーザーが幸せになるかということをスタッフはいつも考えています。

そのためにいい答えを出すには、人のさまざまな目線から知ることだと思います。カスタマーの声を聞くためにはいい質問をしなければ答えは返ってきませんが、私たちは最初に問いからはじめているので、ユーザーが受け入れやすいのだと思っています。

——セキュリティ面での問題も一時期あげられましたが、そこでスピーディに転換できた理由は?

Eric: ユーザーの考える視点で考えられるカルチャーがZoomにはあるからだと思っています。ユーザーを素早く理解して、それに沿って決断することで、内部プロセスのスピードを上げることができると思います。

・・・

ユーザー目線や、現在は競合ソフトの会社を退職して立ち上げたZoomの話はあちこちできいたことがあるエピソードがあったと思います。ふつうやめた会社と同じエリアのソフトを作るのは反感を買いそうですが、WebEx自体はCiscoに買収されたあと、だいぶん親会社の社風に影響され環境が変わってしまったそうです。開発も思うように進められなくなってしまったとか。Yuanさんは20番以内に入る創立時の社員でしたが、当時はすでに創設者の2人はWebExを離れていたので、ほんとうに「もっといいソフトを作りたいんだ〜」という感じだったのかもな、と想像しました。

こんなに自分のとこのソフトを愛してるのに(Yuanさんは基本的にずっとソフト開発マネージャーなんですね)、中国のスパイとかまで言われてほんとうにお気の毒でした。CNNのインタビューではCEO本人がセキュリティ課題に対して正直にお詫びしていてめちゃいい人そう…

・・・

ZoomのCEOは、どんな働きかたをしてる?

——いまはCEOとしての生活は変わりました? 忙しすぎて眠る暇も無い?

自分の毎日が変わったという認識は、ないんですよ。基本的に長時間労働者なんですが、一日仕事をして、たまに19コもミーティングを入れてしまったりということはあります。それはやり過ぎってくらいですよね。

夜は15分のメディテーションタイムを習慣づけています。このときに振り返りをします。「私達はもっと違うふうに出来るかもしれない?」という問いを投げかけるようにしてます。もっといいやり方があったか? もっと会議で違うことができたか? というふうに。

――いま長時間労働ということも言ってましたが、年初に2400人の社員が今は3400人以上になったとのこと。マネジメントもスケールアップします。 

大変ですけど、私達は、自分自身を含め、スタッフ同士でよく話すようにしています。「私たちはもっといい世の中や私達自身のために、ほかにさらにいい方法をとれるだろうか」と自問します。パンデミッククライシスにおいて、つねにこれを問いかけ続けています。

私達のカルチャーは、ユーザーに楽しい暮らしをお届けすること。そのために何ができるか考えましょう、とも言っています。その中にはあなた自身も含まれて、幸せならないといけません。

2つ目は新しいスタッフが増えることは我々にとってもいい経験になるということです。上手くいかないことがあっても、ゴールに向かって成長していけばいいのであって、私達が日々なにか新しいことを学ぶ姿勢があればいいと思います。

アフターコロナのZoomと、将来のビデオ会議

――パンデミックはいつか終わります。パンデミック後のZoomはどうなると思いますか?

まず第一に、私達はいち早くパンデミックが収束してほしいと願っています。3月からのずっと家庭学習が続いている状態は、ほんとうに辛いとしか言いようがないです(笑)。早く学校に行かせてあげたいし、仕事にも自由に行けるようになりたいですよね。ただ、このパンデミックの間に私達の仕事の仕方、学び方、遊び方、生き方にも変化が生じたことは確かだと思います。

さあ、パンデミックが終わり、100パーセントの人がオフィスに戻る必要があるでしょうか?

あるいは私は、ハイブリッドな働きになると思います。

たとえば、月、火は会社で働いて、水曜日は山にある別荘から働いてもいいでしょう。そういうハイブリッドな生活です。また、パンデミックが終わったらすぐに全員がビデオ会議を辞めてしまうとも思いません。家族と話したり、クラスでアクティビティをしたり。いろんな使い方として残る余地は十分にあるはずです。

――おっしゃる通りですよね。だってZoom的なものがなかったら、私達自身、今日ここで、こんな世界の別々の場所から大規模なオンラインカンファレンスを持つなんてことはできませんでしたしね。それから、ビジネスの出張はどうなると思いますか? 変わりますか? 

私の場合、昨年でも出張はあっても2回くらいなんですよ。Zoomを使ったカンファレンスのほうが、落ち着いてできるんです。それ以外にも出張がどれだけ気候変動に悪影響を及ぼしているのかということも指摘しなければなりません。そういったことも考えれば、今後は不要不急の出張はもっともっと減っていくと思いますよ。移動時間が減れば減るほど、家族と過ごせる時間が増えますよね。仕事もやってみればビデオですぐに繋がることができればうまくいくということもわかります。ですから、基本的な出張移動のような必要性は減ると思っています。

――将来のビデオ会議はどういうものになると思いますか?

現在の品質に比べ、よりよい体験を届けることができることは確信しています。例えば、オンラインであっても将来「握手する」感覚を味わうことはできるようになるでしょう。もっと親身になれますよね。そして、コーヒーをお出しして、香りを感じたりとか、違う言語同士で会議をしたりとか。AIを使って、同じスターバックスのサービスを使うとかすればできてしまいますよ。どこに住んでいても、どんな言語が母語でも、バリアを感じず界隈することができる。

――そうなるまで何年くらいと考えますか。

10年から15年くらいと思います。でも可能だと思います。

・・・

握手したりする技術は「ハプティクス」を組み合わせることで可能になるでしょう。デバイスの問題があるのでどう組み込まれていくかが問題ですが、VRも普及してきているので、「画面に向かってZooming」ということは将来なくなり、もっと普段人に会って話すような体験に進化していくとしたら、楽しみですね!

「テレビ電話」は70年代生まれの人間にとってはずっと実現しない絵空事でした。ところがFaceTime で若者に普及し、いまではZoomで老いも若きも顔を見て話せるように。ブレークスルーはどこでやってくるかわからない。けれど、パンデミックがひとつの「顔を見て話したい」ニーズの背中を押したんだろうなと実感しました。次は(リアルに)会っているように話したい、に変わってくのだと思います。

・・・

――最後に、これから成功したいぞ!という人に向けてのアドバイスをいただけますか。

1つは、なにかアイデアがあったら躊躇しないで突き詰めてほしい。ナイキのjust do it! という言葉のようにね。2つ目は、会社の共同経営者はよく考えてきめるのがいいと思います。会社をスケールアップしたいと思った時にも、会社のカルチャーができあがってなければ修正をすることもできない。

——ありがとうございました。

おもいのほか長くなってしまいましたが、インタビューからは、

  • Yuanさん自身がもともとプロダクトマネージャで、ソフトの中味に思い入れがあること。
  • How can be different to be better version of ourselves と呪文のようにつねに改善を考えること
  • ユーザー目線でプロダクトを改良すること、ユーザー(作っている人を含む)がハッピーでないと意味が無い

こんなところが、Zoomがいいソフトになるゆえんなのかな?という感想を持ちました。もちろん、自分で作らなくてもいいソフトは作れると思いますが、もうひとつはもともとユーザーの不満から起業して、ユーザーがハッピーなソフトってなんだろう、とうことを考えていることも重要。ユーザーだけが、開発者だけが、または販売者だけが幸せになるソフトは、結局はよくないのだ。

0
Uncategorized 58 Zoom Zoom Zoomな一年 はコメントを受け付けていません